5年ぶりに、砂恵に会った。砂恵は学生時代は数学を専攻していたのだが、
今はK盆地の楽器のメーカーに勤めている。
盆地内を夜行列車で走っていると、回りを囲む山々の人家の光りは、
銀河の中央から見た天の川のように見える。
名も知らない楽器たちがおいてある、砂恵の部屋。
「昔の管楽器を見つけたのだけれど、中にこの小瓶が入っていて音が出なかったの。
取り出せたけれど、小瓶は何に使うものなのか…」
そう言って彼女は小瓶と、楽器についていた紙片をくれた。 … 「醸音瓶」 … |
透明の水晶の小瓶。
旅行から帰ってからも、わたしは、その小瓶が気になってならなかった。
大きさは鼻煙壷ほどだけれど香りはしない。
さわっているうちに、小瓶が、床に。
カチン
わたしは、割った。砂恵の小瓶を。
わたしは、自転車に乗り、海岸へ降りていった。
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